東日本大震災と地域医療の確保
司会 このたび、民主党の幹事長代理に就任された鈴木克昌衆議院議員にお越しいただきました。
今年は、東日本大震災があり、地域医療の確保にご苦労されたと思いますが……
原中委員長 鈴木先生は、前の総務副大臣でいらっしゃいますが、被災地の自治体病院も大きな被害を受けました。自治体病院の従事者にも、被害を受けられた方や犠牲になられた方が多かったことと思います。大変ご苦労されたのではないでしょうか。
鈴木先生 医療機関の皆さま方には、被災地への医師や看護師の派遣をはじめ、被災地における医療確保にも多大なご尽力をいただいておりますことに、深く感謝と敬意を表します。
東日本大震災においては、自治体病院、民間病院を含めまして多数の医療機関が被災し、診療機能の停止など、地域医療の提供体制が困難な状況となりました。
特に、岩手、宮城、福島三県の沿岸部を中心に、公立病院においても、六病院が全壊の被害を受けるなど、壊滅的な被害を受けた病院もあり、その復旧・復興が急がれています。公立病院の医療関係者では、十九名の方がお亡くなりになり、十七名の方が行方不明となっています。
私は、総務副大臣であった時から、被災地の医療体制の復旧に全力を挙げて参りました。今は立場は変わりましたが、もちろん党としても、東日本大震災からの復旧・復興は最優先の課題です。引き続き、復旧・復興に向けて、党を挙げて全力を尽くして参ります。
平成二十四年度税制改正における事業税の議論
司会 先の震災で、地域医療が地域を守るためにいかに大事かということが、多くの人々に実感されました。したがって、今度の診療報酬の同時改定が重要なのですが、医療機関の経営は診療報酬だけでなく、さまざまな税制上の措置があって、支えられています。昨年の十二月十日に、平成二十四年度税制改正大綱が出ましたが、委員長は今回の結果をどのようにご覧になりましたか。
原中 厳しい財政状況、新しい税制の優遇措置を実現できる状況ではなく、一方、既存の措置は存続できるかどうかの瀬戸際でした。
四段階制(所得税・法人税)も危ない場面がありましたが、特に事業税は、例年以上に極めて強い風当たりで、存続できてよかったと思っています。
司会 平成二十四年度の税制改正大綱の事業税のところは、次のようになりました。
●事業税における社会保険診療報酬に係る実質的非課税措置については、国民皆保険の中で必要な医療を提供するという観点や税負担の公平を図る観点を考慮した上で、地域医療を確保するために必要な措置について引き続き検討します。
●事業税における医療法人に対する軽減税率については、税負担の公平を図る観点や、地域医療を確保するために必要な具体的な措置等についてのこれまでの議論を踏まえつつ、平成二十五年度税制改正において検討することとします。
いずれも次年度に検討を持ち越しということですが、今回の税制改正の事業税を巡る議論(攻防)を振り返っていただきたいと思います。
そもそも、平成二十三年度の税制改正大綱のなかで、「一年間真摯に議論し結論を得ます」と書かれていたのですが、大震災の影響もあってか、厚労省と総務省の間で具体的な議論の進展がみられないまま、政府税調の議論が始まりました。
政府税調では、総務省から強力な見直し要求があり、厚労省は相当危機感を強めていました。
鈴木先生 総務省は、社会保険診療について、国の法人税は課税されているにもかかわらず、地方公共団体は一切課税できないのは不合理であるという立場です。また、そもそも、医療機関も地方公共団体からさまざまな行政サービスの受益を受けているのであるから、受益に応じた税負担をしていただく必要があると主張しています。全国知事会といった地方行政の関係団体からも、措置の廃止を求める要請が出ています。
原中 省庁の主張は、一つひとつの部分では、理解できるところもあります。しかし、医療機関の税制全体のバランスを見て改正の話をしてほしい、と申し上げてきました。
事業税の減税規模は、厚労省の試算で、社会保険診療の非課税が八百八十億円、医療法人の軽減税率が十四億円です。四段階制(所得税・法人税)の減税規模は二百五十六億円です。それに対して、医療の消費税は、日医の試算で少なくとも年二千三百三十億円はあります。
消費税の問題の見通しが立っていない段階で、今、事業税だけを課税強化されたら、計り知れない影響があったでしょう。
省の枠を超えた全体のデザインは、まさに政治の領域。最終的には、党の(厚労部門会議の)重点要望のなかに、この税制の存続を入れていただいたことが、非常に大きかったと思っています。
その間、党の重点要望に入れていただくのが相当難しい状況だった時期がありまして、先生にご尽力いただきました。大変ご苦労をおかけしたのではないでしょうか。
鈴木先生 党内でも、事業税の措置をはじめとする租税特別措置や税負担軽減などは、税負担の公平の原則から見れば、例外的な措置であるという意見もありましたし、政府税制調査会では事業税の税負担は本来診療報酬で措置すべきものではないかという指摘もありました。しかしながら、社会保険診療の地域医療における重要性を考えて、最終的に、党の重点要望に入れる判断をしたところです。
原中 ほんとうにありがとうございました。
今後の議論に向けて
司会 この問題は、来年、本格的な詰めの議論になると思います。今後の議論のあり方について、お考えをお聞かせください。
原中 来年に向けて、引き続き厳しい情勢です。
私たちは、社会保険診療は公共サービスに準ずるものだと考えています。事業税の趣旨が、行政サービスを受けている対価ということであれば、非課税が相応しいのです。
社会保険診療以外にも、健診、予防接種、学校医など、行政の仕事をサポートしている仕事が沢山あります。また、本来は社会保険診療にするべきなのに、財源等の理由で、「評価中」となっているために、自己負担でやらざるを得ない医療もあります。そのようなものも含めて、公共サービスに準ずる仕事を中心にやっている医療機関が大多数ですから、一定の軽減は残すべきです。引き続き理解を求めていきます。
ただ、大綱にも書かれているように「地域医療を確保する」という観点は、総務省と共有できると思っています。地域医療を守るために必要なことについて、医師会が総務省とも協力してゆくことが大切でしょう。
鈴木先生 心身健やかに長生きしたいというのは国民の共通の願いです。その願いをかなえるため、それぞれの地域において、良質な医療をどのように確保していくかということは、地方行政を担当する総務省にとっても大変重要な政策課題です。
税の関係で言えば、現行の税制が真に効果のあるものになっているかどうか普段から点検することは大切なことではないでしょうか。総務省は、地域医療の確保と税の公平が両立できる望ましい税制のあり方を医療機関の意見も十分踏まえながら検討していくべきだと思います。
医療は、国民の皆さまの生活に不可欠な、非常に重要なサービスです。私は、今後とも、総務副大臣の経験も生かしながら、医師会の皆さまと密接に意見交換させていただき、地域医療の確保のため、しっかりと取り組んで参る所存です。
司会 鈴木先生には今後ともご指導をお願いいたします。本日はありがとうございました。 |